トリプトファンは精神的な安定をもたらす物質
トリプトファンはアミノ酸のひとつで、肉類や魚介類などに多く含まれている栄養素です。人間の身体では合成できない物質なので、必ず外部から摂取しないといけない「必須アミノ酸」に分類されています。
このページでは、トリプトファンの効果や働き、そしてサプリメントの選び方・注意点などについてご紹介します。
このページの目次
トリプトファンに期待できる効果は次の2つです。
- 不安やイライラなどの感情が収まり、精神的に安定しやすくなる
- 「夜寝つけない」「眠りが浅い」といった睡眠の悩みが改善される
以下、この2点について詳しく述べていきます。
トリプトファンをしっかり摂ると精神的に安定しやすくなりますが、この効果をもたらしてくれるのは、実はトリプトファン自体ではありません。トリプトファンを原料にして作られる「セロトニン」という物質が、人間の感情を安定させる力を持っています。
こ��で、少しだけセロトニンについてお話しします。
セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンと並んで『三大神経伝達物質』と呼ばれています(※ 神経伝達物質 = 脳内で情報を行き来させるときに必要となる物質)。
この3つの神経伝達物質は、人間の感情を左右することが知られています。具体的に言うと、ドーパミンは快感や喜びなどを引きおこす物質、ノルアドレナリンは不安や恐怖を司っている物質です。
では、セロトニンにはどういった役割があるのかというと、それはドーパミンやノルアドレナリンを制御する役割です。たとえば、ノルアドレナリンの量が多くなると不安や恐怖に過敏になりますが、セロトニンはそれをちょうど良いレベルにコントロールしてくれるのです。
精神的なストレスにさらされると、誰しもが落ち込んだり不安に苛まれたりします。しかし脳内にセロトニンが充分にあれば、マイナスの感情にうまく対処できるようになります。ちょっとした出来事で感情的にならずに済むので、精神的にも安定します。
そして、ここで覚えておきたいのは「セロトニンの原料となるのはトリプトファン」ということです。
原料がたくさんあれば、そのぶんだけセロトニンは生成されやすくなります。つまり、日々の食事からトリプトファンをしっかり摂っていれば、セロトニンがたくさん作られるため、感情のコントロールにつながるのです。
※ セロトニンの詳細は、下記サイトに詳しく書かれています。
セロトニンの働きと効果とは? ストレスにさらされている方必見!
トリプトファンは、「夜寝つけない」「眠りが浅い」といった不眠の症状をやわらげます。ただし、これについても厳密にはトリプトファン自体が持っている効果ではありません。実際には「メラトニン」という脳内物質によってもたらされる効果です。
すでに述べたとおり、トリプトファンは脳内でセロトニンに変化しますが、さらにもう一段階変化が進む���メラトニンになります。
メラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれている物質です。これが脳内で分泌されることによって、自然な眠気がやってくるのです。
通常、夜9~10時ころになるとメラトニンの分泌量は増えるのですが、原料であるトリプトファンが不足していると、メラトニンはスムーズに分泌されなくなります。
【メラトニン分泌量と時刻】
また、「メラトニンの分泌量は年齢を重ねるにつれて少なくなる」というのも見逃せないポイントです。中高年になると夜中に目が覚めやすくなる方が増えますが、それもメラトニンが減少することと関係していると考えられています。
【メラトニンの分泌量と年齢の関係】
ちなみに、メラトニン自体は直接サプリメントで摂ることができます。ただし、「トリプトファン⇒セロトニン⇒メラトニン」という流れに沿って体内で生成するほうがナチュラルです。
トリプトファンのほかにも、睡眠をサポートする成分はいろいろあります。
たとえばアミノ酸のひとつ「グリシン」は、近年になって睡眠を深くする効果が確認されたため、安眠サプリメントとして人気を集めています。そのほかには、バレリアン(ハーブの一種)も睡眠をうながす効果があると言われていて、欧米では昔から利用されています。
アミノ酸には人間の体内で合成できるもの(非必須アミノ酸)と、そうでないもの(必須アミノ酸)があります。トリプトファンは後者です。体内では合成できないので、外部から摂取しなければなりません。
外部から摂る必要があるというのは、見方を変えると「偏った食生活を続けているとトリプトファン不足になる」ということです。
とくに、ダイエット中には不足しやすいので注意が必要です。後ほど述べますが、トリプトファンは肉類や魚介類などに多く含まれている反面、野菜や果物にはほとんど含まれてないからです。
特定の食べ物だけを限定して食べるダイエット(りんごダイエットやこんにゃくダイエット)をしているときには、なおさらトリプトファンが不足しがちになります。
トリプトファンはさまざまな食べ物に含まれていますが、その含有量は食品の種類によって大きく異なります。全体的な傾向としては次のとおりです。
肉類 | ★★★★★ |
魚介類 | ★★★★★ |
豆類&種実類 | ★★★★ |
穀類 | ★★★ |
乳製品 | ★★ |
野菜類 | ー |
果実類 | ー |
ちなみに、牛乳やバナナはトリプトファンが豊富だと思われていますが、実はそれほどでもありません。肉類や魚介類と比較するとかなり低い値です。
● 食品100gに含まれるトリプトファン量
食品 | 含有量 |
---|---|
牛肉 | 200 ~ 290 mg |
豚肉 | 200 ~ 280 mg |
鶏肉 | 200 ~ 270 mg |
ひらめ | 240 mg |
さんま | 200 mg |
米(精白米) | 100 mg |
食パン | 95 mg |
豆乳 | 55 mg |
牛乳 | 40 mg |
バナナ | 10 mg |
必要摂取量は「体重1kgにつき2mg」
1日あたりのトリプトファンの必要摂取量は、体重1kgにつき2mgと言われています(体重50kgなら100mg)。
普通の食生活を送っていれば、1日につき100~200mgのトリプトファンが摂れるので、必要摂取量は確保できると考えて問題ありません。
ただし、精神安定や睡眠改善などの効果をトリプトファンに求める場合は、500~1000mgというのがひとつの目安になります。それを考えると、通常の食事から摂れる量では心もとないというのも事実です。
日本国内では、純粋なトリプトファンサプリは見かけません。その代わりに「いろいろな成分が配合されている中に、トリプトファンも含まれている」というサプリはたくさんあります。
とくに睡眠をサポートする目的のサプリメントには、グリシンやクワンソウなどの成分と一緒にトリプトファンが配合されていることが多いです。
上記のサプリメントを使ってみるのも決して悪くないと思いますが、トリプトファンの含有量を考えると少し頼りないようにも感じます。
そこでオススメなのが、アメリカで販売されているトリプトファンのサプリメントです。1カプセルあたり500mgという高い含有量でありながら、価格もリーズナブルです。
トリプトファンのサプリメントは通常500~3000mgの範囲で使われます(一日あたり)。
ただし、3000mgというのはかなり多い量です。特別な理由がないかぎり、そこまで多量に摂取するのは避けたほうが賢明です。すでに述べたとおり、まずは500~1000mgを目安にして使うようにしましょう。
また、一日あたり6000mg以上の過剰摂取を続けると、ノルアドレナリンの分泌を抑制してしまう可能性が示唆されています。
ノルアドレナリンは恐怖や不安といった感情に関わる脳内物質で、ストレスに正しく反応するために欠かせない物質です。分泌が乱れると、うつ症状を引きおこすことが知られています。
通常、サプリメントは食事のタイミングに合わせて飲むものが多いのですが、トリプトファンは例外です。空腹時に摂るのがベストなタイミングです。その理由は、食事から摂ったアミノ酸が体内にたくさんあると、トリプトファンの吸収が妨げられてしまうからです。
どういうことかというと……
トリプトファンは、血液の流れに沿って脳内まで運ばれた後、セロトニンやメラトニンに変化します。そうすることによって初めて精神安定や睡眠改善につながるわけですが、トリプトファン以外のアミノ酸が体内にたくさんあると、困ったことにそちらのほうが優先的に脳内に運ばれてしまうのです。
他のアミノ酸に邪魔されたトリプトファンは、脳内に取りこまれる代わりに腸から吸収されることになります。脳内でトリプトファン⇒セロトニン(そしてメラトニン)という変換が行われないわけですから、サプリメントを摂った意味もなくなってしまいます。
食事にはタンパク質が含まれていて、それが体内で分解されるとアミノ酸になります。そのアミノ酸とトリプトファンが競合するのを避けるため、空腹時にトリプトファンのサプリを摂るほうがいい、ということなのです。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)はトリプトファンともっとも競合しやすいアミノ酸です。
激しいスポーツをしている方によく利用されているBCAAですが、「不眠に悩まされている」「気分が落ち込みやすい」といった症状がある場合、BCAAサプリメントの摂取には慎重になったほうが賢明です。
トリプトファンのサプリメントは、単体で使っているかぎり大きな副作用が発生する可能性はありません。しかし、医薬品や他のサプリメントとの併用には注意が必要です。場合によっては命に関わってきます。
具体的にどういう薬と併用すると危険なのかというと、それは抗うつ剤です。たとえばSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という薬があります。これは脳内のセロトニン利用率を高める薬ですが、トリプトファンサプリと一緒に使うとセロトニンの濃度が高くなりすぎることがあります。そうすると発熱や吐き気、嘔吐などさまざまな症状が発生するほか、最悪のケースでは死に至る可能性も出てきます(セロトニン症候群)。
また、医薬品だけでなく特定のサプリメントを併用するときにも注意しなければいけません。次の2つのサプリメントは脳内セロトニンに関与しているため、トリプトファンとの併用は厳禁です。
① セントジョーンズワート
ハーブの一種で、SSRIと似たような働きをすると考えられています。
② 5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)
トリプトファンとセロトニンの中間にあたる物質です。セロトニンを増やすサプリとして主にアメリカで人気があります(日本では薬事法の関係で売られていません)。