メラトニンは睡眠をサポートする成分
メラトニンは、脳の松果体(しょうかたい)という器官から分泌されるホルモンです。もともとは「人間の皮膚を白くする物質なのでは?」と考えられていた物質で、60年以上前からアメリカで研究されてきました。
結論から言うと、メラトニンは皮膚の色を変える物質ではなかったのですが、睡眠リズムを整える働きがあることが分かり、現在ではその点で注目を集めています。
人体で生成されるホルモンのひとつでありながら、メラトニンはサプリメントの形でも摂取できます。アメリカでは、「夜になっても眠くならない」「眠りが浅くて夜中に目が覚めてしまう」といった不眠の悩みを抱える人々の間で、メラトニンのサプリが大ブームになったこともあります。
薬事法の関係で、日本ではメラトニンのサプリメントは売られていません。そのため、ドラッグストアに行っても購入することはできません。ただし、アメリカのサプリメント通販会社を経由すれば購入できます。
(詳細は、このページの後半で述べています)
このページの目次
現在のところ、メラトニンの働きは完全には明らかになっていませんが、睡眠と深いかかわりがあることは分かっています。
では、具体的にどんな効果があるのかというと、それは次の2つです。
メラトニンが分泌されると人は眠くなります。これは、メラトニンには身体の体温を下げる作用があるからです。
意外かもしれませんが、眠気と体温には大きな関係があります。人間の体温は、一日を通してほぼ一定ですが、その中でも多少は変動しています。昼から夕方にかけて体温は一番高くなり、深夜が近づくにつれて下がっていきます。
そして重要なのは、「体温が高いところから低いところに落ちるときに、眠気がやってくる」ということです。
【一日の体温変化グラフ】
たとえば、あまり良い例ではないかもしれませんが、映画やドラマなどで、冬山で遭難しかかった仲間に「眠ったらダメだ!」と叫ぶシーンがあります。これは、疲労のせいで眠気を感じているだけではありません。体温が低下したために、急激な眠気に襲われているのです。
話をメラトニンに戻すと……
メラトニンが分泌されると、末梢血管が広がって手足の血液循環が良くなります。そうすると、手足の血管から熱がどんどん放出されて体温が下がります。その結果、眠気がやってきます。
ちなみに、メラトニンの分泌量は夜21時くらいから増えていき、深夜にピークに達します。また、朝を迎えるころには分泌がゆるやかになります。
【メラトニン分泌量と時刻】
上記の分泌リズムは、人間の睡眠サイクル(夜眠って朝起きる)とも一致しています。というより「メラトニンの分泌リズムが睡眠サイクルを左右する」と表現したほうが適切かもしれません。
つまり、メラトニンが適切なタイミングでしっかり分泌されれば、スムーズに眠りに入れるということです。そしてその反面、分泌タイミングに異常があると、眠る時刻になっても寝つけなくなります。
メラトニンは眠気をうながすだけではなく、睡眠の深さを増やす効果もあります。人の眠りには数段階のレベルがあるのですが、基本的には眠りが深ければ深いほど、体と脳にたまった疲労を取り去ることができます。
次の図は、眠りの深さと睡眠時間の関係を示したものです。
この図から分かるのは、「深い睡眠は眠り始めの時間帯に現れる」ということです。また、睡眠後半になるにつれて、眠りが浅くなることも見てとれます。
そして、この睡眠リズムは、実はメラトニンの分泌量リズムとも相関があります。メラトニンがたくさん分泌されれば、深い眠りを確保できるようになります。その反対に、メラトニンの量が少なければ睡眠が浅くなって、熟睡感が得られなくなります。
すでに述べたとおり、メラトニンには「入眠をうながす効果」と「眠りを深くする効果」があります。ということは、体内のメラトニンが少なくなれば、当然寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
軽度のメラトニン不足なら、「最近ちょっと寝つきが悪いな……」くらいで済むかもしれません。しかし、メラトニン不足が深刻になると、さまざまな睡眠障害にかかる可能性が出てきます。
たとえば、入眠障害と呼ばれている症状があります。これは、「ベッドに入ってから寝つくまでに30分以上かかってしまい、なかなか寝つけない」という睡眠障害です。原因はさまざまですが、メラトニンの分泌量が少ないことも、原因のひとつに数えられています。
参考:入眠障害の症状と原因とは? | 睡眠障害のことが分かるサイト
メラトニンが不足する原因は、多岐に渡ります。ここでは、代表的な原因を4つピックアップしてご紹介します。
① 夜に強い光を浴びてしまう
夜が近づくにしたがって、メラトニンの分泌量は自然に増えていきます。しかし、その最中に強い光を浴びてしまうと、メラトニンの分泌にストップがかかります。
これは、光の刺激のせいで「もう朝になったかもしれない」と脳が誤認して、メラトニンの産生をやめてしまうからです。
最近の研究では、一般的な蛍光灯の明るさ(500ルクス程度)を浴びただけでも、メラトニンの分泌が低下することが分かっています。
夕食をとったあと、寝るまでの時間は部屋を明るくしすぎないことが大切です。この時間帯は、メラトニンの分泌量が増えている真っ最中だからです。また、就寝1時間前になったら白色の蛍光灯を消して、オレンジ色の暖色照明を使うようにすると、メラトニンがスムーズに分泌されます。
② 午前中に日光を浴びていない
夜間は強い光を避けたほうがいいのですが、その逆に朝~昼のあいだは光を浴びることが大切です。とくに、午前中に太陽の光を浴びると、その日の夜にメラトニンがたくさん分泌されるようになります。
では、なぜ日光を浴びることが大切なのでしょうか。それは、メラトニンが体内で生成されるときのプロセスを考えると分かります。
メラトニンは、ある物質を原料にして生成されます。その材料は、必須アミノ酸のひとつ「トリプトファン」です。この物質は、太陽の光を浴びることによって体内で化学変化を起こして、セロトニンという物質に変化します。そして夜になると、今度はセロトニンがメラトニンに生まれ変わります。
つまり、「トリプトファン+日光 ⇒ セロトニン ⇒ メラトニン」という生成プロセスがあるわけですが、日光が欠けてしまうと、当然このプロセスは進まなくなります。
そうなるとセロトニンの生成量が落ち込み、その結果メラトニンの量も少なくなってしまいます。
ちなみに、太陽の光を浴びると行っても、何時間も浴びる必要はありません。一日10~15分程度で充分です。通勤や家事などのタイミングで、短時間でいいので日光をあびるようにしましょう。また、曇りの日や雨の日は、少し長めに30分くらい外に出ると良いようです。
③ 不規則な生活を続けている
いつ眠っていつ起きるか(睡眠時間帯)がひんぱんに変化すると、メラトニンの分泌に悪影響が出てきます。いつメラトニンを出したらいいのか、脳が判断できなくなるからです。
とくに、夜勤のある仕事をしている方は、メラトニンの分泌リズムが乱れやすくなるので注意が必要です。最近では「交代勤務睡眠障害」という睡眠障害が注目されていますが、当然これにもメラトニンが関係しています。
④ 年齢を重ねたことによる影響
詳しいメカニズムは判明していませんが、年齢を重ねるにつれて、メラトニンの分泌量は減っていきます。
【メラトニンの分泌量と年齢の関係】
年齢とともに、睡眠の悩みは増えていきます。とくに、夜中に目が覚める「中途覚醒」や、朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」といった睡眠障害にかかりやすくなります。どちらの症状も、眠っている最中にメラトニンの分泌量が減って、睡眠全体が浅くなることが原因のひとつです。
残念ながら、加齢による影響は完全には無くせません。ただし、すでに述べたように「夜は強い光を浴びないようにする」「朝は日光をしっかり浴びる」といった対策をしていけば、メラトニン量を維持することにつながります。また、次に述べる「メラトニンを補うには?」も参考にしてみてください。
メラトニンは、オート麦やトウモロコシ、バナナなどの食品に含まれていますが、その量は微量です。また、メラトニンが含まれていることで有名な「ケール」という野菜にしても、その含有量は決して多くはありません。
人間の体内にあるメラトニン量は、0.2mg~0.4mgくらいと言われています。これと比較すると、食べ物から摂れるメラトニンは非常に少ないです。
仮にケールを100g食べたとしても、摂取できるメラトニンの量は約0.004mgです。これは体内量の100分の1程度でしかありません。つまり、食べ物から直接メラトニンを補給するのは、あまり良い方法とは言えないのです。
● 参考:メ��トニンを含む食品の例(可食部100gあたり)
食品 | 含有量 |
---|---|
ケール | 0.0043 mg |
オート麦 | 0.000183 mg |
とうもろこし | 0.000139 mg |
バナナ | 0.000046 mg |
メラトニンを食べ物から直接摂るのは難しいですが、その原料になる物質を摂るのは簡単です。
メラトニンの原料は、トリプトファンという栄養素です。これはアミノ酸の一種なので、いろいろな食べ物に含まれています。肉類・魚介・類豆類など、高タンパク食品はトリプトファンの含有量が多いです。
トリプトファン自体、不眠を改善する栄養素として有名です。一日あたり500~1000mgほど摂ると、安眠につながると言われています。ただ、この量を食事だけから摂るのはなかなか難しいので、サプリメントを活用するのも一つの選択肢です。
トリプトファンについては、下記ページ↓で詳しく述べています。
また、トリプトファンのほかには、ビタミンB6と糖分も大切です。これらの栄養素が組み合わさることで、最終的にメラトニンが産生されるからです。
ぶた肉やとり肉はビタミンB6が豊富に含まれているだけでなく、トリプトファンもしっかり摂れるのでオススメの食材です。また、お魚だとマグロやかつお、さんまなどはビタミンB6+トリプトファンがたくさん摂れます。
メラトニンのサプリは、日本の薬局では取り扱っていません。そのかわり、海外のサプリメント通販会社から購入できます。
海外の通販会社といっても英語でやりとりする必要はないですし、ネットにある程度慣れていればスムーズに買えるはずです。
ただし、質の悪い業者から購入してしまうと、面倒ごとに巻き込まれる可能性もあります(商品がなかなか届かないなど)。また、値段もピンキリなので、できるだけ信頼できる通販会社から購入したいところです。
現時点でオススメなのは、iHerb(アイハーブ)というサイトです。メラトニンサプリの取り扱い数も多いですし、注文してから1週間くらいで商品が届くので、発送もそこそこ早いほうだと思います。
ただし、メラトニンのサプリは購入数の制限があることを覚えておきましょう。2014年12月時点では、1回の注文で2か月分まで注文可能となっています(随時変更される可能性あり)。
ちなみにひと昔前までは、牛の脳からメラトニンを抽出して、サプリメント用に使っていた時期もあったようです。しかし、現在は動物由来のメラトニンではなく、化学合成されたメラトニンが使われるようになっています。
大手のサプリメーカー(NATROL〔ナトロール〕やNOW〔ナウ〕)のものを選ぶようにすれば、品質の面でも安心できると思います。
メラトニンは、摂取量の範囲がとても広いサプリメントです。標準的な摂取量は1mg~10mgですが、初めて使う場合は1~3mgくらいから試してみることをオススメします。摂りすぎると眠気が翌朝まで残ってしまい、起きられなくなる可能性があるからです。
次に摂取タイミングについてです。錠剤やカ���セル(固形タイプ)のメラトニンは、飲んでから30分~1時間たったあとで眠気がやってきます。飲んでもすぐには眠くならないので、就寝時刻から逆算して飲むようにしましょう。
また、リキッド(液体)タイプのメラトニンの場合は、飲んでから15分くらいで効いてきます。固形タイプよりも効果が早く現れるので、「ついつい飲み忘れてしまう……」という方には、リキッドタイプがお勧めです。
ちなみに、錠剤にしろリキッドにしろ、基本的には同じメラトニンです。どちらの方が眠くなりやすいというのはありません。
メラトニンが発見されてから60年以上たちましたが、多くの研究者によってメラトニンの副作用が小さいことが確認されています。
今までに報告されているのは、悪夢を見る回数が増えたり、翌日に眠気が残ったりするという副作用です。これらの副作用が起きる原因は、ほとんどの場合でメラトニンの摂りすぎです。量を調節して、自分の体に合った量を見つけるようにしましょう。
短期的にメラトニンを使う場合は、それほど注意すべき点はありません。しかし、長期使用については、懸念されていることがひとつあります。それは、「自力でメラトニンを作る働きが弱まるかもしれない」ということです。
メラトニンを外部から摂取し続けると、やがて「体内で産生する必要はない」と体が解釈して、メラトニンを作らなくなってしまう可能性があるのです。
今のところ明確なデータはないですし、「メラトニンを体外から取り入れても、それは体内産生には影響しない」と言っている専門家もいます。一応、上記のような懸念事項があることを理解した上で、メラトニンのサプリメントを使うようにしましょう。
メラトニンを継続的に飲むと、排卵がさまたげられてしまう可能性があります。これは、メラトニンには性腺の働きを抑制する作用があるからです。
安眠対策に使われるメラトニンの量(1~10mg)なら、妊娠に影響しないという説もあります。しかし、妊娠を望んでいる女性は、念のためメラトニンのサプリメントを使わないほうが賢明です。
また、���娠している最中もメラトニンは使わないようにしましょう。妊娠中にメラトニンを摂ったときにどんな影響があるのか、現状はっきりとは分かっていないからです。